所得税では原則として債務が確定したときに必要経費を認識しますが、支出した費用の効果が将来の期間にあらわれるものを「繰延資産」といい、必要経費にするための特別なルールを設けています。
目次
繰延資産の内容と範囲
繰延資産とは?
所得税では必要経費は原則として債務が確定した時に認識しますが、支出の効果が将来にわたって現れるものを繰延資産といい、償却を通じて必要経費にしていきます。
例えば、建物を賃借するために支払う権利金は「将来、建物を賃借して使用する」ために支出するものですので支出時に全額が必要経費になるのではなく、いったん繰延資産として帳簿に資産計上し、その後、建物の使用にあわせて償却していきます。
繰延資産の範囲
会計には開業費や開発費といった繰延資産がありますが、所得税ではこれら以外にも繰延資産が定めらているため、一般的な会計ルールよりも繰延資産の範囲が広くなっています。
繰延資産 | 具体例 |
開業費 | 事業開始前の開業準備のために特別に支出した費用 |
開発費 | 新たな技術や資源の開発、新市場の開拓などの費用 |
公共施設などを設置するための負担金 | 道路や堤防などを設置するための負担金 同業者団体の会員が共同で使用する会館の建設負担金 |
資産を賃借するための権利金等 | 建物を賃借するための権利金 電子計算機を賃借するための権利金 |
役務の提供を受けるための権利金等 | ノウハウの頭金 |
広告宣伝資産の贈与費用 | 飲料メーカーの商品名が大きく描かれた冷蔵庫 |
その他、自己が便益を受けるための費用 | プロスポーツ選手の契約金 |
ただし、これらに該当するものであっても、支出の効果が支出日から1年未満で終わるものについては繰延資産にはなりません。
繰延資産の償却
資産として計上された繰延資産は、それぞれ定められた償却期間にわたって次の計算式で償却することによって必要経費になります。
ただし、支出金額が20万円未満の場合は、繰延資産にはせずに他の必要経費と同様に、全額を債務が確定した年の必要経費にすることができます。
資産を賃借するための権利金は繰延資産ですので、支払った30万円は償却期間にわたって必要経費にします。
償却額 | |
1年目 | 30万円×6カ月/60カ月=3万円 |
2年目~5年目 | 30万円×12カ月/60カ月=6万円 |
6年目 | 30万円×6カ月/60カ月=3万円 |
繰延資産の償却期間
開業費、開発費
開業費と開発費は60カ月の均等償却又は任意償却のどちらかを選択できます。
任意償却とは「任意の時」に「任意の金額」を償却できるということで、支出時に全額償却したり、ある年にまとめて償却したり、納税者が償却の時期と金額を自由に決められます。
繰延資産の内容 | 償却期間 |
開業費 | 60カ月の均等償却又は任意償却 |
開発費 | 60カ月の均等償却又は任意償却 |
公共的施設などを設置するための負担金
・公共施設を設置または改良するための費用の場合
(例)道路や堤防などを設置するための負担金
繰延資産の内容 | 償却期間 |
費用の負担者がもっぱら使用するもの | その施設等の耐用年数×7/10 |
その他のもの | その施設等の耐用年数×4/10 |
・協同施設を設置または改良するための費用の場合
(例)同業者団体の会員が共同で使用する会館の建設負担金
繰延資産の内容 |
償却期間 | |
負担者又は構成員が共同の用に供するもの、協会等の本来の用に供するもの | 負担金のうち施設の建設又は改良に充てる部分 | その施設等の耐用年数×7/10 |
負担金のうち土地の取得に充てる部分 | 45年 | |
商店街の共同アーケードや日よけ等のように、負担者の共同の用と一般公衆の用の両方に供されるもの |
5年 (ただし、施設の耐用年数が5年未満の場合はその耐用年数) |
資産を賃借するための権利金等
・建物の賃借の場合
繰延資産の内容 |
償却期間 | |
新築建物の権利金等で、賃借期間の建設費の大部分に相当し、かつ、建物の存続期間中賃借できるもの | 賃借する建物の耐用年数×7/10 | |
上記以外の建物を賃借するための権利金 | 借家権として転売できるもの | 賃借する建物の賃借権後の 見積残存耐用年数×7/10 |
借家権として転売できないもの | 5年 (契約による賃借期間が5年未満で、契約更新時に再び権利金等を支払うことが明かな場合は賃借期間) |
・電子計算機などの機器の賃借の場合
繰延資産の内容 | 償却期間 |
電子計算機などの機器の賃借に伴う費用 | 賃借する機器の耐用年数×7/10 (その年数が賃借期間を超える場合は賃借期間) |
役務の提供を受けるための権利金等
繰延資産の内容 | 償却期間 |
ノウハウの頭金など | 5年 (設定契約の有効期間が5年未満で、契約更新時に再び一時金や頭金を支払うことが明かな場合は有効期間の年数) |
広告宣伝用資産の贈答費用
(例)飲料メーカーが寄贈する商品名が大きく描かれた冷蔵庫
繰延資産の内容 | 償却期間 |
広告宣伝用資産の贈与費用 | 贈与した資産の耐用年数×7/10 (その年数が5年を超えるときは5年) |
その他自己が便益を受けるための費用
繰延資産の内容 | 償却期間 |
スキー場のゲレンデ整備費用 | 12年 |
出版権の設定の対価 | 契約に定める存続期間(存続期間の定めがない場合は3年) |
同業者団体等の加入金 | 5年 |
プロスポーツ選手の契約金等 | 契約期間(契約期間の定めがない場合は3年) |
法令等
この記事は2020年4月1日現在の法令等に基づいて書かれています。また、この記事は税法学習者に税法の一般的な取り扱いを解説するものですので、個別の事例につきましては税理士等の専門家にご相談ください。