土地や建物、株式、船舶、航空機などを譲渡した場合には、事業所得や山林所得などに該当するものを除いて譲渡所得として所得税が課税されます。
目次
譲渡所得の範囲
譲渡所得とは資産の譲渡による所得のことをいいますが、棚卸資産や棚卸資産に準ずる資産の譲渡、営利目的のために継続的に行われる資産の譲渡、山林の伐採や譲渡、金銭債権の譲渡は事業所得や山林所得、雑所得になるため譲渡所得の範囲から除かれています。
譲渡所得 |
具体例 |
資産の譲渡 (棚卸資産や山林の譲渡等を除く) |
土地、建物、借地権、株式、金地金、宝石、書画、船舶、航空機、機械、特許権、鉱業権などの譲渡 |
譲渡とは、有償・無償に係わらず所有権が移転される一切のことをいいます。したがって、売買だけではなく、交換や競売、代物弁財、収用、現物出資なども譲渡に含まれます。
・譲渡所得と他の所得との区別
譲渡所得の区分
譲渡所得は譲渡対象物によって「総合課税」と「分離課税」に、さらに保有期間によって「長期」と「短期」にそれぞれ区分されて所得税が課税されます。
総合課税(他の総合課税の所得と合算して所得税を計算)の対象となるものは他の所得と合算した合計額に応じて税率が決まるのに対して、土地や建物等の譲渡は分離課税(他の所得とは合算せずに所得税を計算)であるため他の所得の影響を受けません。
また、譲渡対象物の保有期間5年超のものを長期、5年以内のものを短期に区分し、適用される税率等が異なります。
総合課税 | 分離課税 | |
長期譲渡所得 | ・他の所得と通算して累進課税 ・税負担が短期譲渡所得よりも軽い |
・他の所得と通算しないで単一税率 ・税負担が短期譲渡所得よりも軽い |
短期譲渡所得 | ・他の所得と通算して累進課税 ・税負担が長期譲渡所得よりも重い |
・他の所得と通算しないで単一税率 ・税負担が長期譲渡所得よりも重い |
一般の譲渡所得(総合課税)
譲渡所得の金額
一般の譲渡所得は短期譲渡所得(総合短期)と長期譲渡所得(総合長期)に区分して所得金額を計算します。
・総合短期
・総合長期
(※)特別控除額は総合短期と総合長期を合わせて最高50万円、総合短期から最初に控除します。
計算された譲渡所得(総合短期)については所得金額の全額を他の所得と合算し、譲渡所得(総合長期)について所得金額に2分の1を乗じてから他の所得と合算します。
(例)譲渡所得の金額は次のとおりでした。その他に事業所得が300万円ありました。
総収入金額 | 取得費 | 譲渡費用 | |
総合短期 | 300万円 | 270万円 | 10万円 |
総合長期 | 500万円 | 340万円 | 10万円 |
・譲渡所得(総合短期)
総収入金額300万円-取得費270万円-譲渡費用10万円-特別控除20万円=0円
・譲渡所得(総合長期)
総収入金額500万円-取得費340万円-譲渡費用10万円-特別控除30万円(※)=120万円
(※)50万円-総合短期の特別控除20万円=30万円
・総所得金額(他の所得との合算)
譲渡所得(総合長期)120万円×1/2+事業所得300万円=360万円
総収入金額
譲渡所得の総収入金額の計算上、収入金額と収入の時期は次のとおりです。
・収入金額
収入金額 | |
原則 | 譲渡価額 |
法人に対する贈与等 | 贈与等の時の時価 |
法人に対する低額譲渡(時価の50%未満) | 低額譲渡時の時価 |
借地権又は地役権の設定 | 権利の設定対価 |
・収入の時期
収入の時期 | |
原則 | 資産の引き渡し日 (売買契約などの効力発生日とすることも可) |
農地又は採草放牧地の譲渡で許可や届出が必要なもの | 農地又は採草放牧地の引き渡し日 (売買契約締結日とすることも可) |
借地権又は地役権の設定 | 借地権、地役権の設定日 |
法人に対する贈与等 | 贈与等があった日 |
現金収受の時期に係わらず船舶の引き渡し日(売買契約の効力発生日とすることも可)である2020年の収入金額として総収入金額を計算します。
取得費
取得費とは譲渡した資産の取得に要した金額に設備費や改良費を加え、償却費を控除した金額になります。
購入代金に取得のための付随費用(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税、取得資金の借り入れ利子で一定のもの等)を加えた金額です。
償却費
業務に使用していた資産の場合は償却費の累計額とします(業務に使用していなかった資産の場合は一定の計算方法があります)。
取得費: 取得に要した金額28億円+設備費、改良費2億円-償却費12億円=18億円
譲渡費用
譲渡費用とは仲介手数料や運搬費、立退料など資産の譲渡のためにかかった費用をいいます。
譲渡費用の具体例 |
(1) 資産の譲渡のために直接要した費用(仲介手数料、運搬費など) |
(2) 立退料、土地等を譲渡するための建物等の取り壊し損失、取り壊し費用 |
(3) 売買契約締結済みの資産を更に有利な条件で他に譲渡するための契約解除の違約金 |
(4) 資産の譲渡価額を増加させるために譲渡に際して支出した費用 |
土地、建物等の譲渡所得(分離課税)
土地や建物等の譲渡は分離課税として他の所得とは合算せずに所得税が課税されます。土地や建物等の所有期間に応じて分離長期と分離短期の二種類に区分されます。
また、「優良住宅の造成等のための譲渡」や「居住用財産の譲渡」など一定のものについては他のものよりも低い税率が適用されるため区分して計算します。
株式等の譲渡であっても短期の土地譲渡に類似するものについては、土地の譲渡として所得税が課税されます。
株式等の譲渡
株式等の譲渡は原則として上場株式等と一般株式等に区分して申告分離課税で所得税が課税されますが、非課税になるものや総合課税の対象になるものもあります。
譲渡所得の特例
譲渡所得にはここで解説されたもの以外に、収用による譲渡、居住用財産の譲渡、交換による譲渡の場合など多くの特例があります。
法令等
この記事は2020年4月1日現在の法令等に基づいて書かれています。また、この記事は税法学習者に税法の一般的な取り扱いを解説するものですので、個別の事例につきましては税理士等の専門家にご相談ください。