2.2.5.1 売上原価の計算

卸売業や小売業、製造業などのように棚卸資産を有する事業の場合、事業所得の金額の計算上、売上原価の計算はとても重要です。ここでは所得税で売上原価をどのように計算するかを解説します。

売上原価の計算

商品や製品といった棚卸資産については、仕入れた年ではなく販売した年の売上原価として必要経費になります。

 売上原価=年初棚卸資産残高+当年仕入高-年末棚卸資産残高

例えば年初に200個の在庫があって、仕入が1,000個、年末の在庫が100個ならば、販売数量(廃棄などを含む)は1,100個と考えられますので、1,100個分の仕入金額が売上原価になります。

(例)年初に商品が20万円、年末に10万円ありました。当年中の売上は100万円、仕入れは60万円でした。
年初残高20万円+当年中の仕入れ60万円-年末残高10万円=70万円。したがって、当年の売上原価は70万円になります。

棚卸資産とは?

所得税では棚卸資産を(1)商品・製品、(2)半製品、(3)仕掛品、(4)主要材料費、(5)補助材料費、(6)消耗品で貯蔵中のもの、(7)その他これらに準ずる資産と定義しています。

棚卸資産の取得価額

棚卸資産の取得価額には購入先に支払った代金だけではなく、それに付随する費用を含みます。購入した棚卸資産と自己で製造した棚卸資産の取得価額は次のようになります。

購入した棚卸資産

購入した棚卸資産の取得価額は購入代価に棚卸資産を消費又は販売するために直接要した費用を加えた額として計算します。

(例)年初に商品が20万円、年末に10万円ありました。当年中の仕入れは購入先に支払った代金が50万円、引取運賃が10万円でした。
棚卸資産の取得価額は購入先に支払った代金(購入代金)50万円に引取運賃10万円を加えた60万円になります。この結果、売上原価は年初残高20万円+当年中の仕入れ(取得価額)60万円-年末残高10万円=70万円として計算されます。

製造した棚卸資産

自己で製造した棚卸資産の取得価額は、原材料費、労務費、経費に棚卸資産を消費又は販売するために直接要した費用を加えた額になります。

棚卸資産の評価

売上原価は「年初棚卸資産残高+当年仕入高-年末棚卸資産残高」と計算するため、年末の棚卸資産の評価額(残高)をどのように計算するかによって売上原価の金額が変わってきます。したがって、棚卸資産の年末残高の計算はとても重要です。

所得税では棚卸資産の年末残高をどのように計算するかについて、納税者が6種類の原価法と低価法から選択することを認めています。

原価法

原価法とは棚卸資産の取得価額をもって棚卸資産の評価額を計算する方法です。ただし、同一の棚卸資産を複数回に分けて仕入れ、それぞれで仕入単価が違うような場合がありますので、具体的な計算方法として原価法にも6種類の方法があります。

個別法

個別法は棚卸資産の一つ一つを個別に管理して、それぞれの取得価額を期末評価額とする方法です。不動産や貴金属のように一つ一つが個別に管理されている棚卸資産に対して適用できる方法で、大量に取引される(規格によって価格が決められる)棚卸資産には適用できません。

(例)ダイヤモンドを取り扱う宝石店で、当年中のダイヤモンドの増減は以下のとおりでした(前期からの在庫の繰越しはありません)

日付 種類 内容 売上金額 仕入金額
4/30 仕入 ダイヤモンドA 600,000円
7/31 仕入 ダイヤモンドB 550,000円
10/31 売上 ダイヤモンドB 750,000円
1/31 仕入 ダイヤモンドC 400,000円

(解答)
期末にダイヤモンドA(600,000円)、ダイヤモンドC(400,000円)が在庫として残っているので、期末棚卸残高は1,000,000円です。

先入先出法

先入先出法は先に仕入れたものから先に売上げたと考えて期末評価額を計算する方法で、期末近くに仕入れたものが期末棚卸残高として残っていると考えます。

先入先出法には物価上昇時には棚卸残高が大きくなるため、売上原価が小さくなるという特徴があります。

(例)大量生産のA商品を取り扱っています。当年中のA商品の増減は以下のとおりでした。

日付 種類 内容 売上金額 仕入金額 在庫数量
年初 在庫残 @110円×5,000個 5,000個
4/30 仕入 @100円×5,000個 500,000円 10,000個
7/31 仕入 @95円×10,000個 950,000円 20,000個
10/31 売上 @150円×15,000個 2,250,000円 5,000個
1/31 仕入 @115円×10,000個 1,150,000円 15,000個
年末 在庫残 @?円×15,000個

(解答)
年末に15,000個の在庫が残っていますが、年末近くに仕入れたものが残っていると考えるので、年末在庫は以下のとおり1,625,000円になります。

期末在庫 単価 在庫数量 在庫金額
7/31仕入分 @95円 5,000個 475,000円
1/31仕入分 @115円 10,000個 1,150,000円
合計 15,000個 1,625,000円

総平均法

総平均法は棚卸資産の平均取得単価によって棚卸資産を期末評価する方法です。年末棚卸残高は年初の残高を含めた1年間の平均取得単価×期末数量で計算します。

(例)大量生産のA商品を取り扱っています。当年中のA商品の増減は以下のとおりでした。

日付 種類 内容 売上金額 仕入金額 在庫数量
年初 在庫残 @110円×5,000個 5,000個
4/30 仕入 @100円×5,000個 500,000円 10,000個
7/31 仕入 @95円×10,000個 950,000円 20,000個
10/31 売上 @150円×15,000個 2,250,000円 5,000個
1/31 仕入 @115円×10,000個 1,150,000円 15,000個
年末 在庫残 @?円×15,000個

(解答)
・総平均単価の計算
期首在庫を含めて年間の平均仕入単価を計算します。
総平均単価:合計仕入金額3,150,000円÷合計仕入数量30,000個=105円

仕入日 仕入単価 仕入数量 仕入金額 総平均単価
年初残 @110円 5,000個 550,000円
4/30 @100円 5,000個 500,000円
7/31 @95円 10,000個 950,000円
1/31 @115円 10,000個 1,150,000円
合計 30,000個 3,150,000円 3,150,000円÷30,000個=@105円

・年末在庫評価額
在庫数15,000個×総平均単価105円=1,575,000円

移動平均法

移動平均法は棚卸資産を取得する都度に平均取得単価を再計算して棚卸資産を評価する方法です。

(例)大量生産のA商品を取り扱っています。当年中のA商品の増減は以下のとおりでした。

日付 種類 内容 売上金額 仕入金額 在庫数量
年初 在庫残 @110円×5,000個 5,000個
4/30 仕入 @100円×5,000個 500,000円 10,000個
7/31 仕入 @95円×10,000個 950,000円 20,000個
10/31 売上 @150円×15,000個 2,250,000円 5,000個
1/31 仕入 @115円×10,000個 1,150,000円 15,000個
年末 在庫残 @?円×15,000個

(解答)
・移動平均単価の計算
年初在庫が550,000円(5,000個)なので年初の移動平均単価は550,000円÷5,000円=110円です。次に4/30仕入後には在庫が1,050,000円(10,000個)になるので、移動平均単価は1,050,000円÷10,000個=105円になります。同様の計算を繰り返していくと、年末の移動平均単価は110円と計算されます。

日付 種類 内容 在庫金額(a) 在庫数量(b) 移動平均単価
(a)/(b)
年初 在庫残 @110円×5,000個 550,000円 5,000個 @110円
4/30 仕入 @100円×5,000個 1,050,000円 10,000個 @105円
7/31 仕入 @95円×10,000個 2,000,000円 20,000個 @100円
10/31 売上 @150円×15,000個 500,000円 5,000個 @100円
1/31 仕入 @115円×10,000個 1,650,000円 15,000個 @110円

・年末在庫評価額
在庫数15,000個×移動平均単価110円=1,650,000円

最終仕入原価法

その年の最後に棚卸資産を取得したときの単価で評価する方法です。したがって、最終仕入原価法では最後に取得した時の単価が大きく棚卸資産の評価額に影響します。

(例)大量生産のA商品を取り扱っています。当年中のA商品の増減は以下のとおりでした。

日付 種類 内容 売上金額 仕入金額 在庫数量
年初 在庫残 @110円×5,000個 5,000個
4/30 仕入 @100円×5,000個 500,000円 10,000個
7/31 仕入 @95円×10,000個 950,000円 20,000個
10/31 売上 @150円×15,000個 2,250,000円 5,000個
1/31 仕入 @115円×10,000個 1,150,000円 15,000個
年末 在庫残 @?円×15,000個

(解答)
期末棚卸残高は、最終仕入単価(1/31仕入分の単価)115円に期末在庫15,000個を掛けて計算します。
在庫数15,000個×最終仕入単価115円=1,725,000円

売価還元法

年末棚卸資産の通常販売価額の総額に原価率を掛けて評価する方法です。原価率は次のように計算します。

(例)大量生産のA商品を取り扱っています。当年中のA商品の増減は以下のとおりでした。A商品の通常の販売価額は1個150円です。

日付 種類 内容 売上金額 仕入金額 在庫数量
年初 在庫残 @110円×5,000個 5,000個
4/30 仕入 @100円×5,000個 500,000円 10,000個
7/31 仕入 @95円×10,000個 950,000円 20,000個
10/31 売上 @150円×15,000個 2,250,000円 5,000個
1/31 仕入 @115円×10,000個 1,150,000円 15,000個
年末 在庫残 @?円×15,000個

(解答)
・原価率の計算
(年初棚卸資産550,000円+年間仕入金額2,600,000円)/(販売対価2,250,000円+年末棚卸の通常販売対価2,250,000円)=70%

年末在庫評価額
期末棚卸資産の通常販売価額の総額2,250,000円(@150円×15,000個)×70%=1,575,000円

低価法

棚卸資産を種類等の異なるごとに区分して、原価法のいずれかによって計算した金額と、事業年度末の時価を比較して、いずれか低い価額を評価額とする方法です。

棚卸資産の評価方法の届出

法人は①事業の種類ごと、②棚卸資産の区分ごとに、棚卸資産の評価方法を選択して納税地の所轄税務署長に届け出ないといけません。

したがって、同じ会社であっても小売業の商品は先入先出法による原価法で、製造業の主要材料費は総平均法による原価法といったように、事業の種類や棚卸資産の区分が違えば別々の評価方法を選択することができます。

期限までに届け出なかった場合、棚卸資産の評価方法は最終仕入原価法による原価法になります。

特別な評価方法

所轄税務署長から承認をもらった場合は、これまで説明した評価方法以外の方法を使うこともできます。

例えば、法人税の売価還元法と会計の売価還元法は同じ名称でも計算方法が少し違いますので、会計の売価還元法を法人税でもそのまま使用したい場合は、税務署長の承認をもらう必要があります。

法令等

この記事は2019年8月31日現在の法令等に基づいて書かれています。