所得税の引当金-貸倒引当金と退職給与引当金

所得税では一定の要件を満たす場合には、将来の貸倒れや退職金の支払いに備えるために貸倒引当金や退職給与引当金の繰り入れを認めています。

引当金とは?

引当金とは将来に特定の費用や損失が発生する可能性が高いと見込まれる場合に、将来見込まれる費用や損失をあらかじめ負債(又は資産のマイナス)として計上しておくものです。

(例:貸倒引当金)2020年末に1,000万円の売掛金を有していましたが、2021年に3%の確率で貸し倒れが発生すると予測して30万円の貸倒引当金を繰り入れました。その後、2021年に30万円の貸し倒れが発生した場合。
貸倒引当金を繰り入れた30万円が2020年の必要経費になる一方で、実際に貸倒れが発生した2021年には貸倒損失30万円と収入30万円が両建てになるため、所得計算への影響はプラスマイナス0円にになります。

2020年 2021年
貸倒引当金 (必要経費)30万円を繰り入れ (収入)30万円を戻し入れ
貸倒損失 なし (必要経費)貸倒損失30万円
所得計算への影響 必要経費30万円 プラスマイナス0円

貸倒引当金

貸倒引当金とは

不動産所得、事業所得、山林所得を生ずべき事業で発生した売掛金や貸付金などの債権(貸金等)について、将来貸し倒れると見込まれる金額を貸倒引当金として繰り入れた場合には、繰入限度額に達するまでが必要経費になります。

ただし、貸倒引当金に繰り入れた金額は、繰り入れた年の翌年に戻し入れることになります(翌年の収入金額になります)。

(例)2019年から貸倒引当金を繰り入れることにしました。繰入限度額は2019年が30万円、2020年が35万円、2021年が40万円で毎年限度額の全額を繰り入れています。この期間中に実際の貸し倒れは発生しませんでした。
各年とも貸倒引当金の繰入額が必要経費になる一方で、繰り入れた金額は翌年の収入金額になります。

2019年 2020年 2021年
繰入額 (a) (必要経費)30万円 (必要経費)35万円 (必要経費)40万円
戻入額 (b) 0円 (収入)30万円 (収入)35万円
所得金額への影響 (b)-(a) ▲30万円 ▲5万円 ▲5万円

繰入限度額の計算

貸倒引当金の繰入限度額は、次のフローチャートにあるように法的に弁済が猶予された債権など貸し倒れの可能性が高いもの(個別評価の対象になる債権)と、それ以外のもの(一括評価の対象になる債権)に区分して計算します。

なお、一括評価対象となる金銭債権は青色申告者の事業所得から生じた売掛金や貸付金に限られます。

個別評価の対象になる債権

個別評価の対象になる債権については、次のそれぞれの金額が貸倒引当金の繰入限度額になります。

債権の内容 繰入限度額
(1)その金銭債権に会社更生法等による弁済の猶予や賦払いがあったもの 事由が生じた日の翌年1月1日から5年以内に弁済されない予定の金額(担保があるもの等を除く)
(2)債務者が債務超過状態が相当期間継続して回収の見込みがないもの 取立て等の見込みがないと認められる金額
(3)債務者が会社更生法の更生手続開始の申し立て等をしたもの 債権(担保があるもの等を除く)×50%
(4)債務者が外国政府等で長期履行遅滞で金銭債権の価値が著しく減少し、弁済が著しく困難なもの 債権(担保があるもの等を除く)×50%

一括評価の対象になる債権

一括評価の対象になる債権とは事業所得から発生した売掛金や貸付金などの債権をいい、これらの債権の金額から実質的に債権とは認められない額を控除した金額に5.5%(金融業の場合は3.3%)を乗じて繰入限度額を計算します。

一括評価の対象になる債権の貸倒引当金繰入限度額

一括評価の対象になる債権 一括評価の対象外になる債権
(1)売掛金
(2)事業で発生した貸付金
(3)受取手形
(4)未収加工料や未収請負料など
(1)保証金、敷金
(2)手付金、前渡金
(3)前払給料、概算払旅費、前渡交際費
(4)雇用保険法などに基づく給付金等の未収金
(5)仕入割戻しの未収金
(6)個別評価の対象になった債権
実質的に債権とは認められない額
例えば同一の相手方に1,000万円の売掛金と300万円の買掛金がある場合には、1,000万円の売掛金のうち300万円が実質的に債権とは認められない額になります。この場合300万円を控除後の700万円に5.5%(又は3.3%)を乗じて繰入限度額を計算します。

退職給与引当金

事業所得のある青色申告者が退職給与規定を定めて、将来従業員に支給する退職給与に充てるために退職給与引当金を繰り入れたときは、繰入限度額までが必要経費になります。

繰入限度額

退職給与引当金の繰入限度額は、退職給与規定を労働協約で定めている場合と就業規則で定めている場合でそれぞれ次のように決められています。

退職給与引当金の繰入限度額判定フローチャート

(1)当期発生基準額
当期発生基準額の計算式

(2)累積基準額
累積基準額の計算式

(3)給与総額基準額
給与総額基準額の計算式

年末要支給額
在職する使用人の全員が年末に自己都合退職した場合に、退職給与規程により計算される退職給与の合計額をいいます

取り崩し

従業員が退職したなどの事由が発生した場合には、退職給与引当金からそれぞれの金額を取り崩して収入金額に算入します。

取り崩し事由(主なもの) 退職給与引当金を取り崩す金額
(1)従業員が退職した その従業員の前期末の要支給額
(2)退職給与引当金>期末要支給額×20%になった 期末要支給額の20%を超過した部分
(3)退職給与規定がなくなった等 退職給与引当金の全額
(4)(1)(2)以外で退職給与引当金を取り崩した 取り崩し後に残った退職給与引当金の全額
(例)前年末に退職給与引当金残高が1,000万円でしたが、当年に従業員Aが退職したため退職金200万円を支給しました。従業員Aの前年末要支給額は150万円でした。
従業員Aに対して支給した退職金200万円が必要経費になる一方で、前年末の要支給額150万円を退職給与引当金から取り崩して収入金額にします。

法令等

この記事は2020年4月1日現在の法令等に基づいて書かれています。また、このサイトは税法を学ぶ方に税法の一般的な取り扱いを解説するものですので、個別の事例につきましては税理士等の専門家にご相談ください。

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