2.2.4.2 貸倒引当金と退職給与引当金

事業所得の金額の計算では将来の費用や損失に備えるために、貸倒引当金や退職給与引当金の計上が認められています。

引当金とは?

引当金とは、将来、特定の費用や損失が発生する可能性が高いと見込まれる場合に、あらかじめ見込まれる費用や損失を負債(又は資産のマイナス)に計上しておくものです。

貸倒引当金を例にすると次のようになります。

(例)2019年末に1,000万円の売掛金を保有していましたが、2020年に3%の確率で貸し倒れが発生すると予測して30万円の貸倒引当金を繰り入れました。その後、実際に2020年に30万円の貸し倒れが発生した場合。
将来(2020年)に3%の確率で貸し倒れが発生すると予測して、2019年の年末に30万円を貸倒引当金を繰り入れて必要経費にしました。その結果、2020年に貸し倒れが30万円発生しましたが、2020年の所得計算には影響がありませんでした。

2019年 2020年
貸倒引当金 (必要経費)30万円を繰り入れ (収入)30万円を戻し入れ
貸倒損失 なし (必要経費)貸倒損失30万円
所得計算への影響 30万円が必要経費になる プラスマイナス0円

貸倒引当金

貸倒引当金とは

不動産所得、事業所得、山林所得で発生した売掛金や貸付金などの債権(所得税法では「貸金等」といいますが、分かりにくいのでここでは債権という言葉を使います)について、将来、貸し倒れると見込まれる金額を貸倒引当金として繰り入れた場合は、所得税で決められている繰入限度額までが必要経費になります。

ただし、貸倒引当金に繰り入れた金額は、繰り入れた年の翌年に戻し入れることになり、翌年の収入になります。

(例)2019年から貸倒引当金を繰り入れることにしました。繰入限度額は2019年が30万円、2020年が35万円、2021年が40万円で、毎年繰入限度額いっぱいまで繰り入れています。この間、貸し倒れはありませんでした。
2019年は30万円が必要経費になりますが、2020年は35万円が必要経費になる一方で前年の繰入額30万円を戻し入れるので30万円が収入になります。2021年も同様に40万円が必要経費になる一方で、前年の繰入額35万円が収入になります。

2019年 2020年 2021年
繰入額 (a) (必要経費)30万円 (必要経費)35万円 (必要経費)40万円
戻入額 (b) 0円 (収入)30万円 (収入)35万円
所得金額への影響 (b)-(a) ▲30万円 ▲5万円 ▲5万円

繰入限度額

貸倒引当金の繰入限度額は、次のフローチャートにあるように、法的に弁済が猶予された債権など貸し倒れの可能性が高いもの(個別評価の対象になる債権)と、それ以外のもの(一括評価の対象になる債権)に分けて、それぞれ計算します。

個別評価の対象になる債権

個別評価の対象になる債権については、次のそれぞれの金額が貸倒引当金の繰入限度額になります。

債権の内容 繰入限度額
(1)その金銭債権に会社更生法等による弁済の猶予や賦払いがあったもの 事由が生じた日の翌年1月1日から5年以内に弁済されない予定の金額(担保があるもの等を除く)
(2)債務者が債務超過状態が相当期間継続して回収の見込みがないもの 取立て等の見込みがないと認められる金額
(3)債務者が会社更生法の更生手続開始の申し立て等をしたもの 債権(担保があるもの等を除く)×50%
(4)債務者が外国政府等で長期履行遅滞で金銭債権の価値が著しく減少し、弁済が著しく困難なもの 債権(担保があるもの等を除く)×50%

一括評価の対象になる債権

一括評価の対象になる債権については、売掛金等の金額から実質的に債権を見られない金額をを控除した金額に一定の率を乗じて計算します。

実質的に債権とは認められないとは?
例えば同じ相手方に1,000万円の売掛金と300万円の買掛金がある場合、1,000万円の売掛金のうち300万円実質的に債権とは認められないため、300万円を控除した700万円に3.3%又は5.5%を乗じて繰入限度額を計算します。

・主な一括評価の対象になる債権と対象外の債権

一括評価の対象になる債権 一括評価の対象外になる債権
(1)売掛金
(2)事業で発生した貸付金
(3)受取手形
(4)未収加工料や未収請負料など
(1)保証金、敷金
(2)手付金、前渡金
(3)前払給料、概算払旅費、前渡交際費
(4)雇用保険法などに基づく給付金等の未収金
(5)仕入割戻しの未収金
(6)個別評価の対象になった債権

退職給与引当金

事業を営む青色申告者が、退職給与規定を定めて従業員に退職給与を支給する場合、将来の退職給与にあてるために繰り入れた退職給与引当金は、繰入限度額まで必要経費になります。

繰入限度額

退職給与引当金の繰入限度額は、退職給与規定を労働協約で定めている場合と就業規則で定めている場合で異なります。

(1)当期発生基準額

(2)累積基準額

(3)給与総額基準額

取り崩し

退職給与引当金は、従業員が退職したなど、次の事由が発生した場合には、それぞれの金額を取り崩して、収入にしないといけません。

発生した事由 退職給与引当金を取り崩す金額
(1)従業員が退職した その従業員の前期末の要支給額
(2)退職給与引当金>期末要支給額×20%になった 期末要支給額の20%を超過した部分
(3)退職給与規定がなくなった等 退職給与引当金の全額
(4)(1)(2)以外で退職給与引当金を取り崩した 取り崩し後に残った退職給与引当金の全額
(例)前年末に退職給与引当金残高が1,000万円ありました。当年に従業員Aが退職したため200万円の退職金を支給しましたが、従業員Aの前年末要支給額は150万円でした。
従業員Aに対して支給した退職金200万円が必要経費になる一方で、前年末の要支給額150万円を退職給与引当金から取り崩して収入金額にします。

法令等

この記事は2019年8月31日現在の法令等に基づいて書かれています。また、記事の内容は税法の一般的な取り扱いについての解説ですので、個別の事例につきましては税理士等の専門家にご相談ください。