法人成りによる節税とは?

個人事業主としての利益が増えてきたら「会社を設立(法人成り)した方が節税できてお得ですよ!」と言われます。でも、法人成りによる節税とは具体的にどいうことかご存知ですか?法人成りするとどうして節税になるのか解説します。

法人成りによる節税の概要

法人成りして個人事業主が法人化すると節税できる理由は、個人と会社に課税される税目の違いにあります。個人事業主であれば所得税等の税金がかかりますが、法人成りして会社を設立していれば会社に法人税等がかかります。この課税される税金の違いに着目した節税が法人成りによる節税です。

また、法人成りしていると単に事業の利益に対して法人税等が課税されるわけではなく、利益を会社と社長に分散して課税させることができます。

どういうことかと言いますと、個人事業主が法人成りして社長(または会長など)になった場合、会社から報酬を受け取ることができるので、社長に所得税等が課税される一方で、報酬を支払った分だけ会社の利益が減少して法人税等は減ることになります。

このように課税される税目が変わることと、事業の利益を会社と社長の分散させられること等を上手く利用するのが法人成りによる節税というわけです。

具体的な節税方法

給与所得控除を使った節税

法人成りすると事業の利益が社長の報酬と会社の利益に分かれるわけですが、課税所得(法人税や所得税などが課税される利益)で考えると単純にそうはなりません。

まず、個人事業主の課税所得と法人成り後の課税所得がどのように計算されるのか、計算式をご覧ください。

(1) 個人事業主

・個人事業主の課税所得(所得税)
事業の利益 – 青色申告特別控除(65万円)- 所得控除

(2) 法人成り後

・会社の課税所得(法人税)
会社の利益(社長の報酬を支払った後の金額)
・社長の課税所得(所得税)
社長の報酬 – 給与所得控除(最大220万円) – 所得控除

(3) 比較(個人事業主 vs 法人成り後)

(1)の個人事業主の課税所得と、(2)の法人成り後の課税所得をわかりやすく比較すると次の図のようになります。

個人事業主の利益を法人成りによって会社と社長に分けただけのはずですが、青色申告特別控除(65万円)給与所得控除(最大220万円)の金額に差があるため課税所得の金額が変わってきます。

・個人事業主の課税所得 vs 会社+社長の課税所得

給与所得控除は社長の報酬額に応じて決まってくるので、法人成りすると一概に節税できるとは言えませんが、報酬額が増加すると給与所得控除額も増えるので、事業の利益が大きく社長にたくさんの報酬を支給できそうなら法人成りした方がお得と言えます。

税率の違いによる節税

所得税と法人税の税率の違いに着目した節税です。所得税は累進課税と言いますが所得が増えるほど税率が高くなる特徴があります。例えば所得金額が195万円以下であれば税率は5%ですが、4,000万円超であれば税率は45%になり、実に9倍もの開きがあります。

一方、法人税はといえば資本金等や所得金額によって多少の税率の違いはありますが、原則としては23.2%で、所得税ほど大幅に税率が変わることはありません

両者の関係について、おおよそのイメージとしては次の図のようになります。

所得税と法人税の税率はこのような関係になっているため、個人事業主の利益が増えて所得税の税率が高くなってきたら、法人成りによって税率を下げることが有効です。具体的には給与所得控除を使った節税と同じですが、事業の利益を社長の報酬と会社の利益に分けると税率を下げることができます。

したがって、法人成りによって事業の利益を会社と社長に分けることは、先に説明した給与所得控除を使った節税だけではなく、税率の違いによる節税にも有効で二重にお得な節税方法と言えます。

所得を分散することによる節税

所得税は累進課税の税金ですので、一人で稼ぐよりも同じ金額を数人で分散して稼いだ方が税率が低く抑えられます。さらに分散して稼ぐとそれだけではなく、給与所得控除等の合計額も一人で稼ぐ場合より大きくなります

その結果、例えば1,200万円の利益を一人で稼いだ場合よりも、2人で600万円ずつ稼いだ場合の方が手取り額が多くなります。所得税のこの特徴を利用した節税が家族間での所得分散で、例えば奥さんなどの家族に給与を支給すると、社長にだけ報酬を支給する場合と比較して手取り額の合計が増えます。

もちろん個人事業主であっても家族間での所得分散は不可能ではありませんが、個人事業主が家族に給与を支給する場合、専従者でなければならない等の制約があって十分な節税効果を得にくいのが実情です。一方、法人成りしていれば、そういった制約が緩やかになるので社長の家族に対しても給与を支給しやすくなります。

もちろん勤務実態のない家族に給与を支給することや、節税のために実態からかけ離れたような高額な給与を支給することは税務上認められません。しかし、勤務実態のある家族に適切な額の給与を支給するのであれば問題ありません。

役員退職金による節税

個人事業主が事業から引退しても退職金を受け取ることができませんが、法人成りして社長になっていれば会社から役員退職金を受け取ることができます。

もちろん受け取った退職金には所得税等が課税されますが、支払った退職金の分だけ会社の利益が減少しますので法人税等の税負担は減少します。そして退職金に課税される所得税等は通常低く抑えられる傾向がありますので、増加する所得税等よりも減少する法人税等の方が大きければ節税効果があると言えます。

例えば支給する役員退職金を次の退職所得控除以下に抑えれば、社長に所得税等は課税されません。その一方で、役員退職金を会社の損金になるので法人税等は減少します。

ただし、退職金に対する所得税等が低く抑えられるからといって高額過ぎる役員退職金を支給すると、通常の役員退職金を超えた高額過ぎる部分は損金になりません。節税のために不自然に高額な役員退職金を支給しても節税できないということです。役員退職金は有効な節税方法ですが、他社の動向や税理士等の意見も考慮して適正な水準にすることが大切です。

社宅を利用した節税

個人事業主であれば自分の住まいを経費にすることができませんが、法人成りして会社組織にしていれば、会社が社長に社宅を提供してその費用を損金にすることができます。そして、このとき社長が会社に対して一定額以上の家賃を自己負担していれば、社長には所得税等が課税されないことになっているので節税することができます。

(例)会社が月額10万円で賃貸した住宅を社長に月額5万円で転貸します。月額5万円の家賃負担をしていれば社長に所得税等が課税されない場合。
会社は支払う10万円と社長から受け取る5万円の差額が損金になって法人税等が減少します。一方で社長には所得税が課税されないのでトータルで節税効果があると言えます。
(いくら以上の家賃負担すれば所得税等が課税されないかについて役員に貸す社宅の場合をご覧ください)

生命保険料を損金にする節税

個人事業主が生命保険料を支払っても生命保険料控除として最高でも4万円までしか控除できません。一方で法人が支払う生命保険料は契約内容によっては全額が損金になるので節税になります。

消費税が免除になる節税

個人事業者が法人成りした場合、設立した会社の資本金が1,000万円未満であれば最大で2年間消費税の納税義務が免除されます。

本来なら売上などで受け取った消費税と仕入などで支払った消費税の差額は納税しないといけませんが、納税義務が免除されていれば会社の手元に残るので大きな節税になります。

免税事業者になる要件についての詳しい説明は免税事業者になる条件とは?をご覧ください。

法人成りによる税負担増

これまで法人成りによる節税を説明してきましたが、法人成りをするとかえって税金が増えてしまうこともあります。

赤字でも住民税の一部を払わないといけない

個人事業主と違って会社の場合は赤字であっても住民税の一部(均等割)を納税しないといけません。均等割の金額は資本金や従業員数などに応じて決まってきますが、例えば東京都に会社がある場合は最低でも年間7万円の均等割を納税しないといけません。

交際費が損金にならない場合がある

個人事業主の場合は交際費が経費になりますが、法人成りしていると交際費を損金にできない場合があります。交際費を損金にできないということは、交際費を支出しても法人税等の税負担が減少しないことになります。

法人成りを考え始めるタイミング

個人事業主としてどの程度の利益になったらば法人成りすべきかは判断が難しいところですが、事業所得が500万円を超えてきたあたりで、一度税理士に法人成りの税額シミュレーションをお願いしてみると良いでしょう。

所得をどのように分散するべきか、役員報酬はいくらにすれば最も節税効果が大きいかなどアドバイスしてもらえるでしょう。

法令等

この記事は2019年1月31日現在の法令等に基づいて書かれています。