2.5.1 貸倒引当金が計上できる場合

取引先の倒産などによる将来の貸倒れに備えるために企業会計では貸倒引当金を繰り入れますが、法人税でも一定の要件を満たす場合には貸倒引当金の繰り入れを認めています。

貸倒引当金の概要

貸倒引当金とは

法人が保有する売掛金や受取手形、貸付金などの金銭債権はその全てが回収されるとは限らず、債務者の経営状態の悪化などによっては回収できないこともあります。

このように金銭債権が回収できないことを貸倒れといいますが、法人税では将来の貸倒れに備えるために一定の要件を満たす場合には、貸倒引当金の繰り入れを損金として経理処理することを条件に貸倒引当金の繰り入れを認めています。

(例)X1年の期末に売掛金が1,000万円ありましたが、そのうち10万円がX2年に貸し倒れました。
Case1: X1年に貸倒引当金10万円を繰入れた場合(法人税の引当限度額は10万円)
Case2: X1年に貸倒引当金を繰入れなかった場合

X1年 X2年
Case1 損金:貸倒引当金繰入10万円 損金:なし
Case2 損金:なし 損金:貸倒損失10万円

Case1ではX1年に貸倒引当金繰入10万円が損金になりますが、Case2では実際に貸倒れが発生したX2年の貸倒損失10万円が損金になります。このように貸倒引当金を繰り入れることによって損金になるタイミングを前倒しにできます。

貸倒引当金を繰り入れができる法人

企業会計では会社の規模等に関係なく貸倒引当金を繰り入れますが、法人税では次に掲げる法人に限って貸倒引当金を繰り入れが認められています。

貸倒引当金の繰り入れができる法人
(1) 事業年度末の資本金または出資金が1億円以下の普通法人
(資本金が5億円以上である法人の100%子会社などを除く)
(2) 資本金または出資金がない法人
(3) 公益法人等または協同組合等
(4) 人格のない社団等
(5) 銀行、保険会社等
(6) 金融取引に係る金銭債権を有する一定の法人

個別評価金銭債権と一括評価金銭債権

貸倒引当金は売掛金や貸付金といった金銭債権の貸倒れに備えるものですが、法人税では金銭債権を個別評価金銭債権と一括評価金銭債権に区分し、それぞれで貸倒引当金の計算方法を定めています。

・個別評価金銭債権とは
会社更生法によって弁済が猶予されたり、賦払いによって弁済されるなどの事由が発生しているため貸倒れの可能性が高い金銭債権です。貸倒引当金の限度額は債権者ごとに計算します。
・一括評価金銭債権とは
個別評価金銭債権以外の売掛債権等で貸倒れの可能性が比較的低いものです。貸倒引当金の金額は一括評価金銭債権の合計額に一定の率を乗じて計算します。

個別評価金銭債権の貸倒引当金

会社更生法による弁済の猶予などの事由が発生したため貸倒れの可能性が高い金銭債権を個別評価金銭債権といいますが、具体的には次の4種類が個別評価金銭債権に該当します。なお、個別評価金銭債権には売掛金、貸付金等だけではなく、保証金や前渡金等の返還請求を行った場合はその返還請求債権も含まれます。

個別評価金銭債権
(1) 長期棚上げの金銭債権
(2) 債務者が債務超過等の金銭債権
(3) 更生手続き開始等の申し立てがあった金銭債権
(4) 外国政府等に対する一定の金銭債権

長期棚上げの金銭債権

会社更生法の更生計画認可の決定等の特定の事由によって弁済が猶予され、または賦払いで弁済されることになった金銭債権は、個別評価金銭債権として債務者ごとに貸倒引当金の限度額を計算します。

更生計画認可の決定等の特定の事由
(1) 更生計画認可の決定
(2) 再生計画認可の決定
(3) 特別清算に係る協定の認可の決定
(4) 債権者集会の協議決定で合理的な基準によって債務者の負債整理を定めたもの
(5) 行政機関や金融機関などの斡旋による当事者間協議の契約で債務者の負債整理を定めたもの

・貸倒引当金の繰入限度額

長期棚上げの金銭債権は、金銭債権の額から①特定の事由が生じた事業年度終了の日の翌日から5年を経過する日までの弁済予定額、②担保などによって取り立ての見込みがあると認められる額を控除した額までを貸倒引当金を繰り入れることができます。

(例)3月末決算の会社です。売掛金を保有するA株式会社の経営状態が悪化し、2018年10月に1,000万円が更生計画認可の決定によって弁済猶予されました。2024年3月31日までに200万円が弁済される予定です。担保などはありません。
売掛金1,000万円のうち200万円が5年以内に弁済予定ですので、その差額800万円までを貸倒引当金に繰り入れることができます。

債務者が債務超過等の金銭債権

債務超過等の事由によって一部について回収が見込めないと認められる金銭債権は、個別評価金銭債権として債務者ごとに貸倒引当金の限度額を計算します。

債務超過等の事由
(1) 債務の債務超過の状態が概ね1年以上続いていて事業好転の見通しがない
(2) 災害や経済事情の急変などで多大の損害を被った等

・貸倒引当金の繰入限度額

債務者が債務超過等の金銭債権は、金銭債権の額から担保などによって取り立ての見込みがある部分を控除した額まで貸倒引当金を繰り入れることができます。

(例)1,000万円の売掛金を保有するA株式会社は数年前から経営状態が悪化し債務超過状態に陥って既に1年あまりになります。今後も事業は好転が見込めませんが200万円については取り立ての見込みがあります。
債務超過状態が1年あまり継続し事業好転の見込みがないことから、取り立てが見込まれる200万円を除いた800万円について貸倒引当金を繰り入れられます。

更生手続き開始の申し立て等があった金銭債権

債務者が更生手続き開始の申し立て等を行っている金銭債権は、個別評価金銭債権として債務者ごとに貸倒引当金の限度額を計算します。

債務超過等の一定の事由
(1) 更生手続開始の申し立て
(2) 再生手続開始の申し立て
(3) 破産手続開始の申し立て
(4) 特別清算開始の申し立て
(5) 手形交換所(手形交換所がない地域は手形交換業務を行う銀行団を含む)による取引停止処分
(6) 電子債権記録機関による取引停止処分

・貸倒引当金の繰入限度額

更生手続き開始の申し立て等があった金銭債権は、金銭債権の額から①その債務者に対する買掛金等、及び②担保や保証債務等によって取り立ての見込みがあると認められる部分を控除した額の50%までを貸倒引当金に繰り入れることができます。

(例)1,000万円の売掛金を保有するA株式会社の経営状態が悪化し、更生手続を申し立てました。当社はA社に対して買掛金300万円がありますが、担保などはありません。
A社に対する売掛金1,000万円から買掛金300万円を控除した700万円がA社に対する実質的な債権額になり、これに50%を掛けた350万円まで貸倒引当金を繰り入れられます。

外国政府等に対する一定の金銭債権

外国の政府や中央銀行、地方公共団体に対する金銭債権で、これらの債務者の債務履行遅滞によって経済的価値が著しく減少し、かつ、弁済を受けることが著しく困難と認められる金銭債権は個別評価金銭債権として債務者ごとに貸倒引当金の限度額を計算します。

・貸倒引当金の繰入限度額

外国政府等に対する一定の金銭債権は、金銭債権の額から①その債務者に対する買掛金等、及び②保証債務等によって取り立ての見込みがあると認められる部分を控除した額の50%までを貸倒引当金に繰り入れることができます。

一括評価金銭債権の貸倒引当金

一括評価金銭債権とは

一括評価金銭債権とは売掛金や貸付金等の金銭債権のことをいい、個別評価の対象になった金銭債権等は除きます。

貸倒引当金の限度額

一括評価金銭債権の貸倒引当金の繰入限度額は次の「貸倒実績率による計算」によって計算します。ただし、中所企業者等、公益法人等又は協同組合等については貸倒実績率による計算に代えて「法定繰入率による計算」も認められています。

貸倒実績率による計算

貸倒実績率による計算では事業年度末に保有する一括評価金銭債権の帳簿価額に貸倒実績率を掛けた金額まで貸倒引当金を繰り入れることができます。

貸倒実績率はその事業年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度の貸倒実績に基づいて次の計算式で計算します。

(例)当事業年度(2018.4-2019.3)に1億円の一括評価金銭債権があります。過去3年間の貸倒損失などは次の表とおりです。

事業年度 貸倒損失 個別評価引当金の繰入額 個別評価引当金の戻入額 事業年度末の一括評価金銭債権
2017.4-2018.03 1,500,000円 500,000円 110,000,000円
2016.4-2017.03 800,000円 700,000円 100,000,000円
2015.4-2016.03 1,000,000円 500,000円 90,000,000円
3,300,000円 700,000円 1,000,000円 300,000,000円

貸倒実績率の計算:

貸倒引当金の限度額:
期末の一括評価金銭債権1億円×0.01=100万円

法定繰入率による計算

法定繰入率による計算では事業年度末に保有する一括評価金銭債権の帳簿価額から債務者に対する買掛金などを控除した金額に法定繰入率を掛けた金額を限度額として貸倒引当金を繰り入れることができます。

法定繰入率は法人の行う事業ごとに次のように決められています。

事業内容 法定繰入率
卸売業、小売業、飲食店業、料理店業 0.010
製造業 0.008
金融業、保険業 0.003
割賦販売小売業等 0.013
その他 0.006

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法令等

この記事は2019年10月31日現在の法令等に基づいて書かれています。また、このサイトは税法を学ぶ方に税法の一般的な取り扱いを解説するものですので、個別の事例につきましては税理士等の専門家にご相談ください。